San Juan(サンファン)という言葉はそもそも“聖ヨハネ”のスペイン語表記であり、スペイン語圏や北米の旧スペイン領の随所で地名にもなっている。 個人的には聖ヨハネ由来のナニカといえば、むしろブラジルのサン・ジョアン・デル・レイ Sao Joao del-Rei(→ けむりプロ『ビンチドイスとその仲間たち』を見よ)の方が先に思い浮かぶ体たらくであるが、それはさておき、列車の名前自体は、主に D&RGW(Denver and Rio Grande Western R.R.)の3ftゲージ路線によって成り立つ“コロラド・ナローゲージ・サークル”の内側一帯に屹立するサンファン山脈(San Juan Mountains)にちなんだものである。 Alamosa と Durangoを結ぶネームド・トレインは1881年に運行が開始され、当初は“コロラド&ニューメキシコエクスプレス”(Colorado and New Mexico Express) を名乗っていたが、1937年に名前をSan Juanに改めた。D&RGWのネームド・トレインは他に“Silverton”(Durango デュランゴ~ Silverton シルバートン間)、“Shavano”(Salida サリダ~Gunnison ガニソン間)があったが、いずれも先に姿を消し、San Juanのみが1951年まで生き永らえた。
Sun Juanは、座席車が日本型で喩えれば“特ロ”とビュフェ付のパーラーカーのみ、という列車であった。日本の軽便に慣れ親しんだ身には、やはりナローながらにして“豪華”列車というあたりに色目を遣わずにはいられない。 なお、本邦では『サンファン“急行”』と称されることが多いが、彼地の或る書物(*1)にはこんな趣旨の記述がある。 「時折この列車のことを“San Juan Express”と記す物書きがいるが、そんな列車はいない。“San Juan”という誇り高き列車なら存在した」 「1947年、San Juanが10周年を迎えたとき、Holiday Magazineが出版した“Narrow Gauge Holiday”で、著者のLucius Beebe(*2)は正しくSan Juanという名前を使ってくれた」 じっさい、現役当時のタイムテーブルを見ると、停車駅に関してはほぼ各駅に近く、あまりスピードを売りにしている気配もない。スイスのメーターゲージの“氷河急行”のような性格の列車を想像すればよいのだろうか。 それにしても、豪華列車=急行ないし特急のはず…という思い込みは洋の東西を問わずあるようだ。 *1:John B.Norwood “Rio Grande Narrow Gauge” (Heimburger House Publishing) Chapter 14 “The Sun Juan”より *2:Lucius Beebeは、“NARROW GAUGE IN THE ROCKIES”の著者のひとりでもあった。